中京大学 人工知能高等研究所ニュース(IASAI News), 第5号

NHK番組「ためしてガッテン:知って楽しい!驚異のボウリング上達術」制作に参加して (2001.1.31放映)

中京大学 情報科学部 宮崎慎也 山田雅之

仕事柄テレビや新聞に出させてもらう機会は少なくないが、こういったお茶の間向けの番組に出演できるケースはそうはない。話は体育学部の北川薫先生から本学部の長谷川純一先生を通じて舞い込んできた。最初は、ボウリングの運動解析を共同でやってはどうかいうことで、ちょうど新しい研究テーマに欠いていた時期でもあり、興味深い内容であったので即やらせてもらうことにした。しかし、初回の打ち合わせはNHKの宇野ディレクタを交えた北川先生と宮崎の3者会談で、蓋を開けて見るとNHKの人気番組「ためしてガッテン」への出演というものであった。さらに放映までに年末年始をはさんで2ヶ月足らずしかないという。我々の専門はCGとAIであり画像処理の知識は学生のときに学んだ程度である。なんか今更断れるような雰囲気ではないし、この仕事本当に請けて良いのだろうか?このようにプロジェクトの始まりは多くの不安要素をかかえたものであった。

依頼の内容はというと大まかに2つあり、1点目は北川先生らが計測する投球時の筋電圧(筋肉が発生する電圧値)を投球フォームにマップして表示してほしいということであった。これは投球フォームをキャプチャできるかどうかにかかってくるので、最近はやりのモーションキャプチャを使ってみてはどうかと考えた。ボウリング場での撮影を考えると大掛かりなカメラを設置する光学式は難しいので、磁気センサタイプのものを借りられないかと幾つかの業者にあたってみた。磁気センサはデータのサンプリングの間隔が100Hzぐらいまでしかでないので十分な解像度でキャプチャできるかどうかも心配だったが、ロケ期間が間近過ぎるのと年末という時期が災いして結局借りることができなかったので心配する必要はなかった。

残された方法はビデオ映像からのキャプチャである。ボウリングは場所の移動が比較的少ないスポーツではあるが、ビデオカメラでフォームのはじめから終わりまでが入るように撮影して、人物をはたして十分な大きさで撮れるだろうかという点がここでの心配であった。もちろんビデオカメラを動かしながら撮影する方法も考えられるが、これも我々撮影の素人にとっては高等技術であるし、撮影後の映像からフォームを生成する処理も複雑になる。実際のロケではプロボウラにも投げてもらうということなので、これらの不安要素をかかえたままぶっつけ本番というのはいくらなんで危険である。

早速、北川先生のご紹介で豊田市内の美鳥里ボウルで6レーンを貸しきってもらって体育学部の学生さんをモルモットに予備実験をした。また、ビデオ撮影要員としてゼミの学生を2人スカウトしておいた。これで僕ら2人を合わせれば4人になるので、投球フォームの正面と側面、レーン上を転がるボールを3台のビデオカメラで撮影しても、1人余るという勘定になる。実際のボウリング場にビデオカメラを設置して試すことができたので、この予備実験は本当にありがたかった。予備実験当日には、NHKの宇野さんや全日本ボウリング協会の理事の方も立ち会って下さったので、予備実験とはいえ、かなり緊張する内容であった。実験後に打ち合わせを兼ねて食事に連れて行ってもらった。学生たちはこういうプロジェクトに参加する経験ははじめてのようで、さらに食事をご馳走してもらったので喜んで仕事をこなしてくれた。

帰ったら早速投球フォームのキャプチャ作業に入った。学生たちと一緒に関節位置をプロットするための自前のプログラムを1時間程度で作り、ビデオ映像の各フレーム画像に関節位置をプロットする作業をはじめた。実は彼らのメインの仕事はこの関節位置のプロットだったのだ。一研究者としては、全自動は無理としても画像処理による半自動での関節位置抽出といきたいところだが、画像処理に詳しくない我々がこの期間でやるには危険すぎる。

さて依頼の2点目はというと、投球時の手首のひねりが検出できないかということであった。素人さんの中にはボールにカーブをかけようとして手首を故意にひねる人が多くみられるが、これは間違いだそうで、これが科学的に?証明できないかというのである。これはさすがにビデオ撮影では難しいので、今度こそ磁気センサの出番である。磁気センサの原理は、トランスミッタからでる磁界を手足につけたセンサで検出し、センサの空間的な位置と向きを検出するというものである。実験前には100Hz程度のサンプリング間隔で手首の回転が検出できるかという点と有線のセンサを手首につけた状態で投球できるかという点が心配されたが、回転は問題なく検出でき、ケーブル線の問題も線を肩に留めて補助者が投球と同時に線を送り出すことでなんとか切り抜けることができた。

このように予備実験で問題点を把握した後だったので、本番のロケでの実験は比較的スムーズに行うことができた。学生たちも東京への2度の週末旅行は少々疲れ気味ではあったが、なかなかできない体験をしたとあって満足しているようであった。特に1回目は、実験データの取り込みに一部失敗があり、3日間、昼間は実験と撮影、夜はホテルで夜を徹してのプロット作業をがんばってくれた。今回の経験によって我々教員も少しは成長したみたいで、今後の研究に役立てそうである。

表紙の上段はプロボウラーとアマチュアの投球フォームの違いです。筋肉の電圧を赤で表示してみると、ボールのリリース時にプロは上腕で力を出しているのに対し、アマチュアは腕先に力が入っているのがよくわかります。下段のような投球フォームと体の各部の筋電圧波形を対応させることにより、投球フォームのどの時点で体のどこに力が入っているかを知ることができ、実際の選手教育の場での利用も期待されています。